中国茶の 六大分類 とは、1978年に安徽農業大学教授の陳椽教授によって提唱された、製茶方法と発酵度合いによってお茶を分類する方法で、中国茶を体系的に理解するための基礎的な概念です。
中国茶の種類と分類方法
中国では、一般的にお茶はその製造工程の違いによって分類されています。これがよく知られる「六大茶」で、青茶、緑茶、紅茶、黒茶、白茶、黄茶の6種類を指します。これらのお茶はすべて同じ植物、すなわち学名カメリア・シネンシス(Camellia sinensis)と呼ばれる「お茶の木」から製茶されています。
カメリア・シネンシス(Camellia sinensis)という学名は、ラテン語で「中国の椿」という意味を持ちます。この名称は17世紀の植物学者であるカメルにちなんで名付けられました。さらに、この茶の木が現在の学術的分類に正式に確定したのは、1905年に開催された国際植物学会においてのことです。それ以前は、地域ごとや発酵過程などの特徴に基づいて多様な分類がされていましたが、学術的な統一が行われたことで、現在の茶文化が世界に広がる基盤が作られました。
この茶樹の起源は中国南部、特に雲南省周辺にあるとされ、世界最古の茶文化の発祥地として知られています。雲南省には樹齢2700年を超える野生茶木も現存し、茶の歴史的深さと自然の恵みの豊かさを示しています。この古代茶木は、現在でも一部の特別な茶葉生産に利用されています。
ただし、中国には「お茶の木」以外の植物から作られたお茶や、植物以外を原料としたお茶も存在します。これらは「茶外茶」と呼ばれ、例えば菊花茶や苦丁茶などが該当しますが、これらは「六大茶」の分類には含まれません。
さらに、「お茶の木」を使用していても「六大茶」に分類されないものもあります。その代表例が「花茶」です。花茶は、緑茶や青茶などのベースとなるお茶に乾燥花を混ぜ、香りを吸着させて作られます。製造工程に基づく分類ではなく、香り付けの方法が異なるため、「六大茶」の枠に当てはめにくいのです。
また、香りを付けた花茶とは別に、お茶を淹れる際に乾燥した花を浮かべ、その香りを楽しむ方法もあります。これらの違いは、中国茶の豊かさと多様性を象徴しており、味や香りだけでなく、製造方法や楽しみ方に至るまで幅広い文化が存在していることを示しています。
発酵度合いによる分類
お茶は製法の違い、特に発酵(酸化発酵)の度合いによって大きく6つの種類に分けられます。
1.緑茶 – 不発酵で、茶葉の鮮やかな緑を保つように加工されます。
2.白茶 – 微発酵で、若芽や葉を自然に乾燥させる工程が特徴です。
3.黄茶 – 緑茶に似た製法ですが、ゆっくりと乾燥させることで独特の風味を持ちます。
4.青茶(烏龍茶)- 半発酵で、緑茶と紅茶の中間的な風味を持ちます。
5.紅茶 – 完全発酵で、赤みを帯びた色合いと強い香りが特徴です。
6.黒茶 – 後発酵で、特にプーアール茶が有名です。発酵後に長期間熟成させることで、独特の深い味わいが生まれます。
例えば烏龍茶は、中国茶の中でも特に多様性が豊かで、安渓鉄観音や武夷岩茶など、主に産地や銘柄名で呼ばれることが一般的です。安渓鉄観音は福建省安渓市で生産され、花のような香りと甘みのある味わいが特徴です。一方、武夷岩茶は福建省武夷山で作られ、岩肌で育つ独特の生育環境がもたらすミネラル感が魅力です。
また、黒茶の代表例であるプーアール茶は、生茶と熟茶に分かれます。生茶は発酵度が低く、時間をかけて自然に熟成します。熟茶は人工的に発酵を促進する工程を経るため、比較的短期間で深い味わいが得られます。ただし、英語圏では「紅茶」をBlack teaと呼ぶ文化があり、この点でプーアール茶の分類に混乱が生じることがあります。
水色(すいしょく)による分類
お茶の分類を理解するうえで、茶葉そのものの色だけでなく、水色(抽出されたお茶の色)も重要な指標となります。発酵度合いは、水色に明確に反映されるため、視覚的に確認することができます。例えば、プーアール茶の熟茶は濃い茶褐色の水色を持ち、味わいも濃厚でコクがあります。一方で、生茶は透明感のある明るい水色を示し、より軽やかな風味が特徴です。このような視点を取り入れることで、茶の違いや楽しみ方をより深く理解することができます。
6大分類以外の分類方法
中国茶は一般的に緑茶、白茶、黄茶、青茶(烏龍茶)、紅茶、黒茶の6大分類で語られますが、これに「再加工茶」を加えて7大分類とする場合や、「茶外茶」を含めて8種類に分類する方法も存在します。これらの追加分類は、茶文化の多様性や人々の好みに応じて新たな切り口を提供しており、中国茶の魅力をさらに広げる役割を果たしています。
再加工茶について
再加工茶とは、6大分類に含まれる茶葉をベースにして、人の手によって特別な加工が施されたお茶を指します。このカテゴリーには、ジャスミン茶や工芸茶が含まれます。
ジャスミン茶:緑茶や白茶をベースに、ジャスミンの花の香りを吸収させたものです。爽やかで香り高い味わいが特徴で、中国国内外で非常に人気があります。
工芸茶:花や茶葉を結び合わせ、熱湯を注ぐと美しい花が開くように設計された茶です。視覚的にも楽しめるため、特別な場面で提供されることが多いです。
これらは「花茶」と総称されることもありますが、正式な分類では「再加工茶」に属します。香り付けや形状の工夫によって、新たな価値を生み出した再加工茶は、見た目と味わいの両方で人々を楽しませてくれます。
茶外茶について
「茶外茶」とは、カメリア・シネンシス(茶の木)を使用せず、他の植物を原料としたお茶のことです。代表的な例として、八宝茶、薔薇茶、菊茶、苦丁茶、杜仲茶などが挙げられます。これらは一般的に健康茶として知られ、以下のような特徴があります。
・カフェインが少ない: 茶外茶はカフェインをほとんど含まず、カフェインを控えたい人に適した選択肢です。
・独自の健康効果: それぞれの原料植物が持つ特性によって、リラックス効果や美容効果、体調改善などの機能が期待されます。
特に八宝茶は、複数の花や果実、薬草をブレンドしたもので、風味豊かで見た目も華やかです。薔薇茶や菊茶は美肌やリラックス効果があるとされ、健康志向の人々に支持されています。
漢方的な温性と涼性の特徴
中国茶の特徴の一つに、漢方的な「温性」(体を温める)と「涼性」(体を冷やす)があります。この性質を理解することで、個々の体調や季節に合わせたお茶選びが可能になります。
温性:薔薇茶などが代表的です。冷え性の改善や血行促進に効果があるとされ、特に寒い季節や体を温めたいときに適しています。
涼性:菊茶や苦丁茶などが含まれます。熱を冷ます働きがあり、暑い季節や体内の余分な熱を取り除きたいときに効果的です。苦丁茶は特に強い涼性を持ち、発熱や喉の炎症を抑えるのに役立つとされています。
これらの性質を考慮して茶を選ぶことで、飲むお茶が体に与える影響を最適化できます。例えば、冬には温性の薔薇茶を、夏には涼性の菊茶を飲むことで、季節に応じた健康維持が期待できます。
発酵度と温性・涼性の関係
茶葉の発酵度とその「温性」・「涼性」の関係は、漢方理論に基づいた重要な視点です。発酵度が高いほど茶葉は温性(体を温める性質)となり、発酵度が低い茶葉は涼性(体を冷やす性質)になります。発酵度が中程度の茶葉は「平性」とされ、温性と涼性の中間的な性質を持ちます。
•温性: 紅茶、黒茶(プーアール熟茶)、武夷岩茶など発酵が進んだ茶葉。寒い時期や冷え性改善に適しています。
•涼性: 緑茶、白茶、ジャスミン茶など発酵度が低い茶葉。暑い季節や体内の熱を冷ましたいときに効果的です。
•平性: 半発酵の烏龍茶は、温性と涼性の中間に位置し、季節や体調に合わせて飲みやすいお茶です。
涼性の茶葉、例えばジャスミン茶のベースに使われる白茶や緑茶は、体の熱を冷ます働きがある一方で、冷え性の人にとっては注意が必要です。特に冬場に涼性のお茶を多く飲むと、体が冷えやすくなるため、飲みすぎには注意しましょう。
紅茶、武夷岩茶、プーアール熟茶など、温性の発酵度が高いお茶は冷え性の人にとってはおすすめです。これらは体を内側から温め、血行促進や冷え性改善に効果的です。冷え性の人は、朝や夜に温かい温性のお茶を飲むことで、体温を維持しやすくなります。
季節に合わせた茶葉の選び方
季節ごとに体の状態や気候の変化に応じて最適なお茶を選ぶことで、健康維持やリラックス効果が期待できます。
•春: 「花茶」がおすすめです。春は新陳代謝が活発になる時期で、ジャスミン茶や工芸茶などの花茶が心身をリラックスさせ、春の息吹を感じさせます。
•夏: 「緑茶」が最適です。涼性のお茶である緑茶は、体の熱を取り除き、爽やかな味わいが暑さを和らげます。
•秋: 「烏龍茶」が適しています。半発酵の烏龍茶は、乾燥しがちな秋に適度な潤いをもたらし、香り高い風味で季節の変わり目にぴったりです。
•冬: 「紅茶」や「黒茶」がおすすめです。温性のお茶が体を内側から温め、寒い時期の冷え対策に最適です。
お茶の性質を理解するポイント
重要なポイントとして、お茶は熱湯で淹れて飲むことが多いため、温かいお茶を飲めば体が温まると感じがちですが、茶葉の性質によって体への影響は異なります。
・涼性のお茶: 温かくても体を内側から冷やす作用があるため、冷え性や寒い時期には注意が必要です。
・温性のお茶: 発酵が進んだ茶葉は体をしっかりと温める効果があるため、季節や体質に合わせて取り入れましょう。
お茶を選ぶ際は、単に温度や香りだけでなく、茶葉の「温性・涼性」の性質を理解し、体質や季節に合ったお茶を飲むことが、健康維持やリラックス効果を高めるポイントです。