青茶 (せいちゃ)、わが国では一般的には烏龍茶(ウーロンちゃ)として知られている、緑茶と紅茶の中間的な特徴を持つ半発酵茶です。
青茶 とは?
青茶は、日本では一般的に「ウーロン茶」として知られていますが、実際には「ウーロン茶」という名称は、青茶の一種類を指します。具体的には、「烏龍品種」という茶樹から作られるお茶であり、中国茶全体の総称でもなく、青茶全般を指す言葉でもありません。
青茶は半発酵茶で、発酵の度合いが緑茶と紅茶の中間に位置するため、独特の香りと味わいを持っています。古くからの生産地は福建省と広東省であり、宗(宋)の時代から製造が始まったとされています。近年、日本などでの人気を背景に、湖南省でも生産が行われるようになり、さらに台湾では品種改良が加えられて、新たな生産地として注目されています。
青茶の中でも最も古いものとして知られるのが、福建省武夷山産の「武夷岩茶」です。俗に「げん茶」とも呼ばれ、「げん」とは水色(茶の湯の色)が濃く、味や香りが豊かなことを意味しています。この「武夷岩茶」は、明末から清初にかけてヨーロッパへ輸出され、大きな人気を博しました。その結果、「ボビー」や「ボヘア」といった名前で広まりましたが、これらは「武夷」が訛ったものです。
青茶はその歴史の深さや地域ごとの特徴的な製法によって、中国茶文化の中でも特に興味深い存在であり、世界的にも高い評価を受けています。
青茶の製法と特徴
青茶の製造では、発酵を途中で止めることで、緑茶と紅茶の中間に位置する独特の風味を生み出します。また、揺青や揉捻といった手間のかかる工程が、その香りや味わいに奥深さを与えます。これらの工程の積み重ねが、青茶特有の芳醇な香りとまろやかな味わいを作り上げます。
また、青茶の製造に用いる茶葉は、芽を摘まず、芽が成長して3~4葉になったときに収穫します。この収穫法を開面採(かいめんさい)と呼びます。芽を摘まない理由は、未成熟な芽が青茶特有の香りを引き出す際の障害となるためです。青茶の豊かな香気は、成熟した茶葉からしか得られないとされています。
青茶の製造工程
半発酵茶である青茶は、以下の工程を経て製造されます。
萎凋(いちょう)
茶葉を萎らせる工程です。茶葉に含まれる水分を減らし、香りや成分を引き出しやすくします。萎凋には以下の方法があります。
- 日光萎凋(晒青・しせい): 屋外で直接日光に当てる方法。
- 日陰萎凋(涼青・りょうせい): 屋外の日陰で行う方法。
- 室内萎凋(做青・さくせい): 室内で行う方法。
これらを組み合わせることで、それぞれのお茶の個性を作り出します。
揺青(ようせい)
茶葉を攪拌し、軽く揺らす工程です。茶葉の縁に傷をつけることで、酵素と空気を触れさせて発酵を促します。この工程で香りと味の基本が作られます。
炒青(しょうせい)
茶葉を釜で炒ることで、発酵を止める熱処理の工程です。これを殺青(さっせい)とも呼びます。殺青には釜炒り以外にも、以下の方法があります。
- 蒸青(じょうせい): 蒸籠で蒸す方法。
- 曬青(しせい): 直射日光に当てる方法。
- 火青(かせい): 直火で炙る方法。
炒青は青茶独特の香気を引き出し、品質を安定させる重要な工程です。
揉捻(じゅうねん)
茶葉を揉むことで成分を抽出しやすくする工程です。青茶では次のような方法があります。
- 手揉み: 茶葉を直接手で揉む方法。
- 包揉(ほうじゅう): 木綿の袋に少量の茶葉を詰め、手で揉みながら球形に成形する方法。
特に台湾の「凍頂烏龍茶」では、足で揉む独特の技術が用いられています。
乾燥
茶葉を乾燥させて完成に近づける工程です。この工程で「毛茶(もうちゃ)」と呼ばれる半製品が仕上がります。その後、必要に応じて焙煎や仕上げ加工が行われます。
岩茶の製造工程
青茶の中でも、岩にしがみつくように生育する茶樹から作られる銘柄である「岩茶」は、独特の製法で作られます。以下に岩茶の製造工程を順を追って説明します。
開面採(かいめんさい)
茶摘みの工程です。岩茶では成熟した葉が3~4枚開いた状態の茶葉を摘む「開面採」が行われます。未成熟な芽は香りを損ねるため摘まれません。
晒青(しせい)
摘んだ茶葉を竹笊に入れ、直射日光に当てて萎凋させる工程です。これにより青臭さが抜け、軽い萎凋の香りが立ちます。日差しの強さに応じて20~120分程度行われ、茶葉の重量が10~15%減少します。
涼青(りょうせい)
晒青後の茶葉を日陰に移し、熱気を冷ます工程です。ここで茶葉の温度を適切に下げ、次の工程に備えます。
做青(さくせい)
密閉された室内で発酵を促進する工程です。室温21~27℃、湿度70~85%に調整された環境で8~12時間茶葉を置きます。この間、茶葉に回転や振動を与えたり、攤青(たんせい:茶葉を広げ散らす作業)を繰り返して均一な発酵を進めます。
炒青(しょうせい)
180~220℃に熱した釜で茶葉を加熱し、発酵を止める工程です。これを殺青(さっせい)とも呼びます。この工程で茶葉の香りや風味の基盤が作られます。
初揉(しょじゅう)
最初の揉捻工程です。茶葉を軽く揉むことで、茶の成分が抽出しやすい形状にします。
復炒(ふくしょう)
再び茶葉を釜で加熱する工程です。これにより茶葉の形状を整え、香りや味をさらに引き出します。
復揉(ふくじゅう)
2度目の揉捻工程です。茶葉をよりしっかりと揉み、岩茶特有の形状と質感を完成させます。
水焙(すいばい)または毛火(もうか)
最初の乾燥工程です。この工程で茶葉の含水率を30%程度に減少させます。水分を適度に取り除くことで、茶葉の保存性を向上させます。
足火(あしび)
最後の仕上げ乾燥です。100℃で1~2時間茶葉を乾燥させ、最終製品に仕上げます。この工程で茶葉の香りが安定し、完成品としての品質が整います。
岩茶の特徴
岩茶の製法は非常に手間がかかりますが、その分、濃厚な香りと味わい、そして「岩韻(がんいん)」と呼ばれる独特の余韻が生まれます。これらの工程が丁寧に行われることで、岩茶は高品質な青茶として多くの茶愛好家に愛されています。
青茶の主な種類と有名な産地
中国には多くの青茶の銘柄がありますが、特に有名なものを以下に紹介します。
- 鉄観音(てつかんのん):福建省安渓県で生産される銘茶で、濃厚な香りと甘みのある味わいが特徴です。
- 大紅袍(だいこうほう):福建省武夷山で生産される高級茶で、深い香りと豊かな味わいが魅力です。
- 凍頂烏龍茶(とうちょうウーロンちゃ):台湾南投県の凍頂山で生産される烏龍茶で、花のような香りとまろやかな味わいが特徴です。
- 鳳凰単叢(ほうおうたんそう):広東省潮州市の鳳凰山で生産される烏龍茶で、多様な香りと深い味わいが楽しめます。
福建省の青茶
福建省は中国茶の名産地として知られ、ここで栽培される青茶は「びん北青茶」と「びん南青茶」に大別されます。これらの青茶はそれぞれ特徴的な風味と歴史を持ち、中国茶文化を語る上で欠かせない存在です。
びん北青茶
びん北青茶の代表格は、武夷山で生産される「大紅袍(だいこうほう)」です。この大紅袍は、中国の国賓に供されるほど貴重な特別な茶樹から作られます。ただし市場で流通している大紅袍は、この茶樹から挿し木で栽培されたもので、厳密には本物とは区別されます。
武夷山の「大紅袍」を筆頭に、「白鶏冠(はっけいかん)」「水金亀(すいきんき)」「鉄羅漢(てつらはん)」を加えたものが「武夷の四大岩茶」と呼ばれます。これらの岩茶は、武夷山自然風景区の九曲渓や三十六峰、九十九岩などの景勝地で、岩にしがみつくように生育する茶樹から作られたため、「岩茶」という名がつけられました。そのため、生産量は少なく希少です。
岩茶の特徴は、香りや味が濃厚であること、そして飲んだ後に甘い残香を感じる「岩韻(がんいん)」です。この岩韻は独特の風味として評価される一方、個人の好みによってはクセと感じられることもあります。
びん南青茶
びん南青茶の代表は、福建省南部の安渓県で生産される「安渓鉄観音」です。このお茶の最大の特徴は、蘭のような華やかな香りと、飲み口の苦味が瞬時に甘みに変わる独特の風味です。この甘みの余韻は「音韻」と称され、びん北青茶の「岩韻」と対比される表現です。
また、安渓鉄観音の茶葉には「起霜」と呼ばれる白い斑点が見られ、引き締まった螺旋形の球状に加工されているのも特徴です。この美しい見た目も、安渓鉄観音が多くの茶愛好家に親しまれる理由の一つです。
広東省の青茶
広東省の青茶で特に有名な銘茶が鳳凰水仙(ほうおうすいせん)です。このお茶は、広東省東部の潮州市にある鳳凰山で作られる水仙品種の青茶で、もともと福建省などでも広く栽培されている大衆的で経済的なお茶です。鳳凰水仙は、その起源を福建省のびん北青茶に求めることができ、福建省と広東省の茶文化の繋がりを示しています。
鳳凰単叢の特徴
鳳凰水仙の中でも、潮州市の鳳凰山一帯にある卿鳥(きょうちょう)らい山で生産される鳳凰単叢(ほうおうたんそう)は、高級青茶として知られています。「単叢」という名前は、一株単位で栽培された茶樹から製茶されることを意味しており、その特別な生産方法が品質の高さを保証しています。
鳳凰単叢の特徴は、マスカットのような甘く華やかな香りと、苦味の少ないまろやかな風味です。このお茶は、その風味の違いを際立たせるため、「黄枝香」「通天香」「蜜蘭香」などの茶銘で商品化され、さまざまな種類が販売されています。それぞれ異なる香りと味わいを持ち、多くの茶愛好家に愛されています。
工夫茶の発祥とその他の広東省の青茶
鳳凰山が位置する広東省東部の潮州市は、中国茶の飲み方である工夫茶(こうふうちゃ)の発祥地としても有名です。工夫茶は、濃く淹れたお茶を小さな茶杯で味わう形式で、中国茶文化の中でも特に洗練された作法とされています。また、広東省の「万古坪」では、烏龍茶の原型に近い製法でお茶が作られており、この地域は青茶の発展にも重要な役割を果たしています。
台湾の青茶
台湾は青茶の産地として広く知られており、その中でも凍頂烏龍茶や文山包種茶は特に有名です。これらのお茶は、台湾青茶の代表格として世界中で親しまれています。
凍頂烏龍茶
凍頂烏龍茶は、台中県南投市にある凍頂山で生産されます。この地域は、海抜800~900メートルの高地で、年間平均気温は20℃、年間平均降水量は2500ミリと、茶の栽培に最適な気候条件を備えています。また、霧が頻繁に発生するため、茶葉に特有の豊かな香りとまろやかな味わいをもたらします。そのため、凍頂烏龍茶は台湾青茶の中でも特に高い評価を受けています。
文山包種茶
台北市郊外の文山地区で生産される文山包種茶は、発酵度が低い青茶で、緑茶に近いさっぱりとした飲み口が特徴です。「包種茶」という名称は、さまざまな品種の茶葉をブレンドして作られることからきています。その軽やかな味わいと飲みやすさは、日本人にも好まれています。
美味しい淹れ方
青茶を美味しく淹れるためのポイントは次の通り。
- 茶葉の量:茶杯や急須に対して適量の茶葉を使用します。一般的には150mlのお湯に対して3g程度が目安です。
- お湯の温度:90℃前後のやや高めのお湯を使用します。
- 抽出時間:1煎目は1分程度、2煎目以降は少しずつ時間を延ばして抽出します。
これらのポイントに気をつけて淹れることで青茶本来の風味と香りを楽しむことができます
青茶は、その多様な種類と深い歴史から、世界中で愛されています。各地の特色ある青茶を試しながら、自分好みの一杯を見つけてみてください!