中国の 緑茶 は、発酵を行わない「不発酵茶」に分類され、茶葉と抽出液が緑色を呈することから緑茶と呼ばれます。その製法や産地により、多彩な種類が存在し、それぞれ独特の風味と香りを持っています。
中国で最も愛される緑茶
緑茶は中国で最も広く飲まれているお茶の一つであり、特に浙江省杭州の名茶「龍井茶」はその中でも際立った人気を誇ります。龍井茶の鮮やかな色と洗練された爽やかな風味は、中国の茶文化の象徴的存在といえるかもしれません。
また、日本人にとって日常的に飲む馴染み深いお茶が緑茶です。そのため、中国茶においても同じように考えられがちですが、実際には中国の緑茶と日本の緑茶では風味が大きく異なるため、日本人にとってはやや親しみにくく感じられることもあります。しかし、お茶の故郷である中国には多種多様な製法が存在しています。じっくり味わうことで私たちが普段飲んでいる日本茶に似た馴染み深い味に出会えるかもしれません。
殺青方法による緑茶の分類
緑茶は「六大茶」の中で最もシンプルな製造工程を持ち、次の工程から構成されています。
- 摘採:新芽や若葉を手摘みします。
- 殺青(さっせい):高温で加熱し、酵素の働きを止めて発酵を防ぎます。緑茶は無発酵茶のため、摘まれた茶葉はすぐに殺青の工程に入れられ、発酵が抑えられます。殺青には、炒青(釜炒り)、蒸青(蒸す)、晒青(日光)、烘青(火で炙る)の4種類があります。
- 揉捻(じゅうねん):茶葉を揉んで形を整え、香りと味を引き出します。殺青後の茶葉を揉むことで、成分が抽出しやすくなるよう加工します。この工程によって、製品の茶葉の形状が異なります。例えば、長く捩れた形(例: 長炒青)丸い粒状(例: 円炒青)扁平な形(例: 扁炒青)など
- 乾燥:最後に茶葉を乾燥させて保存性を高め製造工程を完了させます。乾燥の方法や温度、時間の調整により、香りや風味が決まります。
その製造過程において特徴的なのが、発酵を止めるための熱処理である「殺青(さっせい)」です。この殺青の方法によって緑茶は次のように分類されます。
炒青緑茶(釜で炒める)
茶葉を釜や鍋で炒る方法です。炒青で作られた緑茶は、香ばしさと濃厚な味わいが特徴で、葉の形状が美しく仕上がります。
炒青緑茶は、日本流に言えば「釜炒り緑茶」に該当します。中国では最も一般的な緑茶の製法ですが、わが国においては珍しい製法です。佐賀県の嬉野茶や熊本・宮崎両県の青柳茶などではみることができます。
緑茶の風味は殺青方法によって大きく変化します。釜で炒ることで香ばしさが加わる一方、日本茶で一般的な蒸し製法(後述する蒸青緑茶)とは異なるため、中国の緑茶が日本人にとってやや馴染みにくいとされる理由の一つです。
茶葉の形状による分類
炒青緑茶は仕上げられる茶葉の形状に応じて、更に細かく3種類に分類されます:
長炒青
長炒青は、茶葉をよじれた細長い棒状に仕上げた炒青緑茶で、代表的な銘柄に「眉茶」があります。この名称は、茶葉の形状が眉のように見えることから名付けられました。主産地は安徽省、浙江省、江西省の3つの省で生産され、産地ごとに異なる製品名が付けられています。
長炒青は、最も早くヨーロッパに輸出された緑茶であり、その歴史は古く、中国茶の国際的普及に大きな役割を果たしました。現在でもモロッコやアルジェリアなどの北アフリカ地域で特に好まれています。
円炒青
円炒青は、茶葉を真珠のように丸く揉捻して仕上げた炒青緑茶で、「珠茶」とも呼ばれます。その形状が真珠に例えられることから、この名が付けられました。主な産地は浙江省で、特に紹興や奉化を含む「水平茶区」の特産品として知られています。この地域で生産されるものは一般に「水平珠茶」と呼ばれています。
円炒青は、初めてヨーロッパに輸出された際、「コングー(貢熙)」や「パウダー」と呼ばれ、当時は「武夷岩茶」と並ぶ高級品として扱われました。その品質と美しい見た目が海外で高く評価され、中国茶の国際的な評価を高める一翼を担ったお茶です。
円炒青は、その粒状の形状から長期保存に適し、輸出品としての価値が高かったことが特徴です。香ばしい風味と濃厚な味わいがあり、緑茶の中でも独特の存在感を持つ一品です。
扁炒青
扁炒青は、茶葉を平たく押しつぶしたような形状に仕上げた炒青緑茶です。この製法で作られるお茶の中で最も有名なのが、杭州の龍井茶です。龍井茶は中国緑茶を代表する銘茶であり、その美しい扁平な形状と繊細な味わいから、「特殊緑茶」として高く評価されています。
扁炒青は、その製法により、茶葉の見た目が平たく整い、美しく仕上がるのが特徴です。また、製造過程で茶葉に香ばしさと軽い甘みが加わり、飲み口がすっきりとしているため、幅広い層に親しまれています。扁炒青の中でも龍井茶は、名声と品質の高さから中国国内外で特に人気の高いお茶です。
- 西湖龍井:浙江省杭州市西湖周辺で生産される龍井茶で、平らで細長い形状と淡い緑色が特徴です。清々しい香りと甘みのある爽やかさが楽しめます。
碧螺春
江蘇省蘇州市の太湖周辺で栽培される碧螺春は、細く巻かれた渦巻きの形状と白い産毛が特徴です。花のような香りと柔らかな味わいが魅力です。中国を代表する二大緑茶の一つである蘇州で生産されているこのお茶は、杭州の龍井茶と並び中国緑茶を代表する銘茶です。
製造工程は他の緑茶と基本的に同じですが、碧螺春の場合は、一人の職人が一つの炒り釜で全ての工程を連続して行うのが特徴です。このため、茶の品質は職人の技能に大きく依存しており、まさに「職人芸」と呼ぶにふさわしいお茶です。碧螺春は全て茶樹の芽から作られるため、見た目は粉や埃のようにも見えます。しかし、その高い香りは非常に独特で、清代の康熙帝の時代には「嚇殺人香(人を驚かすほどの香り)」と名付けられていました。この名を雅でないとして、康熙帝が南巡の際に「碧螺春」という美しい名前を与えたという伝承もあります。なお、このお茶には500gあたり6万~7万個もの芽が使われており、その香りの高さと希少性が評価される名茶です。
蒸青(蒸気で蒸す)
茶葉を蒸して発酵を止める方法です。中国では稀な方法ですが、日本茶(煎茶や玉露)に用いられるものと似ているため、さっぱりとした味わいと鮮やかな緑色が日本人にとっては馴染みがあるかもしれません。
- 恩施玉露: 中国で数少ない蒸青緑茶。
- 日本茶全般: 日本では主流の製法で、旨味と柔らかな風味が特徴。
烘青緑茶(火であぶる)
熱風や直火を使って茶葉を炙り、発酵を止める方法です。中国全土で生産されていますが、主産地は浙江省、安徽省、福建省、湖北省、湖南省などです。特に安徽省南部と浙江省西部の一帯は良質な産地として知られています。
烘青緑茶は香りの吸着性が非常に良いことが特徴で、「花茶」の再加工原料としてよく利用されます。例えば、日本でも馴染み深いジャスミン茶は、烘青緑茶を基材にして作られることが一般的です。
再加工用だけでなく、高級品として特別な烘青緑茶も存在します。これらは「特殊烘青緑茶」として分類され、以下のような銘茶が含まれます
- 雁蕩玉露(浙江省)
- 黄山毛峰:安徽省黄山で生産される緑茶で、細く曲がった形状と白い産毛が特徴です。蘭のような香りと甘みのある味わいが楽しめます。
- 太平猴魁:長く平らな葉とフルーティな香り。
- 安吉白茶:さっぱりとした風味と優雅な香り。
- 六安瓜片:安徽省六安市で生産される緑茶で、平らで瓜の種のような形状が特徴です。濃厚な香りと甘みのある味わいが魅力です。
- 信陽毛尖:河南省信陽市で生産される緑茶で、細く尖った形状と白い産毛が特徴です。爽やかな香りと甘みのある味わいが楽しめます。
晒青緑茶(日光に晒す)
晒青緑茶は、日光を利用して発酵を止める「晒青」という方法で殺青を行う緑茶です。さらに乾燥も同じく日光で行うことが多いため、非常に独特な風味を持ちます。その特殊な風味は、主産地である中国西南部の各省(四川省、貴州省など)の人々に好まれるものの、それ以外の地域では一般的に馴染みにくいとされています。
四川省では晒青緑茶のことを「川貴(せんき)」と呼び、貴州省では「黔青(けんせい)」と呼んでいます。
晒青緑茶は、そのまま飲まれることもありますが、主に黒茶の原料として使用されます。晒青緑茶を湿らせ、後発酵を促すことで、磚茶(れんが茶)や陀茶(お碗状の緊圧茶)などの製品に加工されます。これらの黒茶は保存性が高く、少数民族の生活必需品として広く利用されています。
晒青緑茶は、日光で処理される独特の製法により、自然な香りと強い個性を持つお茶です。その特殊な風味や利用方法から、他の緑茶とは異なる魅力がありますが、地域性の強いお茶として位置づけられています。また、黒茶の製造に欠かせない重要な役割を果たしている点でも注目されます。
- 雲南毛峰: 力強く個性的な味わい。
- 普洱茶(生茶)の原料: 後発酵茶の素材に使われます
多様な製法が生む味わいの違い
緑茶の味の多様性は、その製法の違いによるものです。緑茶は、摘み取った後に殺青(高熱処理)→整形→乾燥という工程を経て作られます。このシンプルな工程の中でも、熱処理や乾燥方法に工夫が凝らされ、多彩な味わいが生まれます。
中国と日本の緑茶製法の違い
中国の緑茶は主に炒青、烘青、晒青が主流であるのに対し、日本では蒸青が一般的です。近年では、日本への輸出向けに蒸青製法の緑茶を中国で生産するケースも増えていますが、中国の高級緑茶は、日本茶よりも荒々しくフレッシュな香りが際立っています。
美味しい淹れ方
中国緑茶を美味しく淹れるためのポイントは以下の通りです。
- 茶葉の量:茶杯や急須に対して適量の茶葉を使用します。一般的には150mlのお湯に対して3g程度が目安です。
- お湯の温度:80℃前後のやや冷ましたお湯を使用します。高温すぎると渋みが強く出るため注意が必要です。
- 抽出時間:1煎目は1分程度、2煎目以降は少しずつ時間を延ばして抽出します。
これらのポイントを守ることで、緑茶本来の風味と香りを楽しむことができます。
緑茶には体の熱を鎮める効果があるとされています。このため、夏の暑い時期や飲酒後、肌に吹き出物が出やすい時におすすめです。また、カフェインを多く含むため、目覚まし効果や集中力を高める飲み物としても利用されています。
まとめ
日本でも新茶が愛され飲まれているように、中国でも緑茶の新茶はその年の最初の収穫で作られたもので、春の訪れを象徴するものとして愛されています。
中国緑茶は、その多様な種類と深い歴史から、世界中で愛されています。各地の特色ある緑茶を試しながら、自分好みの一杯を見つけてみてはいかがでしょうか。