龍井茶(ロンジンちゃ)は、中華人民共和国浙江省北部の特産の緑茶の一種です。
中国緑茶の代表的存在であり、そのさわやかな香りと旨みの厚みで知られています。
龍井茶とは?
龍井茶は、中国浙江省杭州市西湖周辺で生産される高級緑茶の一種です。平たい形状の茶葉が特徴で、爽やかな香りと甘みのあるまろやかな味わいを持ちます。特に「西湖龍井」は最高級品とされ、清明節前に摘まれる「明前茶」が最も貴重です。
中国の西湖の周辺にある龍井村で作られていたことから、その名前が付けられたと言われています。この一帯には、獅峰(しほう)、虎跑(こほう)、雲栖(うんせい)、梅家塢(ばいかう)といった4つの有名な生産地があり、中でも「獅峰龍井茶」が最高品質とされています。
また、これらの4地域に限らずとも、西湖周辺には多くの茶園があり、そこから作られるお茶の総称として「西湖龍井茶」という呼び方を使うことがあります。
龍井茶が中国国内で有名になったのは清代の頃で、乾隆帝への献上茶となったことがきっかけです。それ以降、龍井茶はその地位を確立し、中国を代表するお茶として広く知られるようになりました。

産地である浙江省杭州市は上海や南京といった大都市に近いので流通も盛んです
蘇州の碧螺春と並び、中国を代表するお茶として国際的にも認知されています。
龍井茶の特徴
龍井茶は、色、形、味、香のすべてにおいて他を圧倒するとされ、「色形味香の四絶」として中国緑茶の最高峰と称されています。
これら四絶とは、「鮮やかな緑色」、「ふくよかな香り」、「さわやかな甘味」、そして「美しい形」を指します。その中でも、西湖龍井には「板栗香」と呼ばれる栗にも似た独特の香りがあり、これが特に愛好者に評価されています。
龍井茶は中国茶の中でも緑茶として分類されるお茶ですが、日本の緑茶と中国の緑茶には大きな違いがあります。
日本の緑茶は一般的に生の茶葉を蒸気で蒸す「蒸青」製法で作られるのに対し、中国の緑茶は「炒青」と呼ばれる釜炒り製法で作られるものが一般的です。日本の緑茶とは風味も大きく異なり、独特の香ばしさと控えめな苦みがあります。
また、茶葉の形が扁平で均一な形をしているのがこのお茶の特徴なので、一見すると「枯れた葉っぱ」にしか見えないかもしれませんが、これは茶葉を炒る際に手で釜に押し付けるようにして作られます。
この製法は、茶葉を黒変させずに効率よく水分を取り除きながら、形を整えることができる技術ですが、その過程では押し付けるタイミングや力の強弱が重要で、熟練の職人の技術が求められます。
茶葉の収穫時期や摘み取る茶葉の種類によっても、このお茶の価値は大きく変わります。
特に、清明節(せいめいせつ、太陽暦で4月5日頃)前に摘まれた新茶は「明前龍井(めいぜんろんじん)」と呼ばれ、最も品質が高いとされています。
この明前の茶葉は最高級品として扱われ、例えば獅峰で採れたものであれば「獅峰明前龍井茶」として特別な地位を持つ茶となります。
次に、清明節の後から穀雨(こくう、太陽暦で4月20日頃)までに摘まれた茶葉で作られるのが「雨前茶(うぜんちゃ)」、または「二春茶(にしゅんちゃ)」と呼ばれます。そして、穀雨以降に摘まれる茶葉は「三春茶(さんしゅんちゃ)」とされます。
さらに、摘み取る茶葉の形状によって呼び名が異なり、新芽だけを摘んだものは「蓮芯」、一芽一葉のものは「旗槍」、一芽二葉は「雀舌」、そして一芽に二、三葉を含むものは「鷹爪」と呼ばれます。このように、摘み方による名称は茶の品質や等級を示すものであり、「旗槍龍井茶」は二番茶、「雀舌龍井茶」は三番茶を意味します。
このように、龍井茶は品質に応じて11段階もの細かい等級に分類されており、最上級のものとなると驚くほどに高値で取引されます。
歴史と文化
龍井茶は中国茶の中でも特に古い歴史を持つお茶の一つで、生産記録は1500年以上前に遡ります。宋の時代に陸羽が著した『茶経』にもその名前が記されており、当時から高い評価を受けていたことがわかります。

龍井茶と呼ばれるようになる前は、「香林茶」や「白云茶」「宝云茶」などと呼ばれていました
龍井茶の発祥地である龍井村には、「龍井」という井戸があり、この井戸は決して水が枯れることがなく、深く海とつながっていると信じられてきました。また、この地には龍が棲んでいるという伝説も語り継がれています。晋の時代には、錬丹術師であった葛洪がこの地で修行を行ったとされています。
清の時代には、乾隆帝が狮峰山を訪れた際に龍井茶でもてなされたことが、このお茶の知名度をさらに高めました。乾隆帝はその美しい外観、優雅な香り、そして豊かな味わいに感動し、皇室茶として18本の茶木を認定しました。この木々は現在でも狮峰山に残っており、龍井茶の象徴となっています。
この故事により、龍井茶は中国皇帝への献上茶としてその地位を確立し、今日に至るまで中国の「国茶」として知られています。また、海外からの要人をもてなす際にも欠かせない存在であり、「緑茶の女王」と称されるまでになりました。
龍井茶の発祥地は浙江省杭州市にある西湖の周辺です。特に龍井村が歴史的な生産地として知られており、この地域は龍井茶の品質を支える理想的な自然条件に恵まれています。伝統的には、獅峰山、梅家塢、翁家山、云栖、虎跑の地域が龍井茶の主要な産地とされてきました。現代では、これらの地域で生産された茶葉を「西湖龍井」と呼び、特に高品質なものとして知られています。
一方で、浙江省内のその他の地域、つまり西湖周辺以外の地域でも龍井茶が作られるようになり、それらは「浙江龍井」として分類されています。
獅峰龍井
龍井茶の中でも特に名高いのが「獅峰龍井」です。その特別な風味と高品質で知られています。西湖龍井茶の産地の中でも獅峰山は一際注目されています。
獅峰山は西湖龍井茶の主要な産地の中でも特に標高が高く、寒暖差が大きい地域です。この寒暖差により、茶葉の成分が消費されにくくなり、茶葉内部に旨味成分が凝縮されます。その結果、濃厚な味わいと豊かな香りを持つお茶が生産されます。ただし、中国全土には獅峰山より標高が高い山も多く存在し、そのため無名の高地で作られた龍井茶の方が美味しいとされる場合もあります。
獅峰山には、清朝の時代から続く「実生茶」の茶木が残っています。実生茶とは種から育てられたいわゆる在来種です。歴史的価値が高いだけでなく、その風味と品質でも特別な評価を受けています。一方、現代の主流である「龍井43号」は収穫が10日ほど早く行えるため、生産効率が高く、農家にとって経済的なメリットがあります。しかし、龍井43号の茶葉は成長速度が速い分、薄味になりがちです。これに対し、実生茶はゆっくりと成長し、根が深く長く広がることで豊富なミネラルを吸収し、濃厚で奥深い味わいと余韻を持つ茶葉を生み出します。
獅峰山には樹齢100年以上の茶木が今でも残されており、これが獅峰龍井の品質を支える重要な要素となっています。老木の根は深く広く張り巡らされており、土壌中の豊富なミネラルを吸収する能力が極めて高いです。このため、老木から収穫された茶葉は特に濃厚な味わいと香りを持ち、他の茶葉と一線を画します。
まとめ