祁門紅茶とは?
祁門紅茶 (キームン紅茶)は、中国安徽省祁門県で生産される紅茶で、中国十大銘茶の一つとして広く知られています。
また、インドのダージリン、スリランカのウバと並び世界三大紅茶の一つに数えられます。
紅茶に使われる茶葉は、中国種とアッサム種の2種類に分けられます。アッサム種はインドやスリランカで主に栽培されており、ダージリン種とウバ種がこれにあたります。中国種は中国や日本、ロシアなどで育てられていて、祁門紅茶はこの中国種です。
祁門県はもともと緑茶の生産地でしたが、1800年代後半、ヨーロッパで紅茶の需要が高まったことから、紅茶の生産へと切り替えました。
特徴
祁門紅茶の茶葉は細長くて黒い光沢があり、高級なものには金色の小さな芽(ティップ)が混じっています。このティップがあると、特に良い品質のお茶だと言えます。
甘い果物のような香りと、蘭の花のような優しい香りが混ざり合っています。まろやかでコクがあり、口当たりの良さが特徴です。この独特の香りと味が、世界中で愛されている理由の一つです。
お茶を淹れると、水の色はきれいな赤色になり、柔らかく穏やかな味わいが広がります。ほのかに甘さを感じるとともに、上品な花の香りや果物の甘い香りも楽しめます。
また、この紅茶は作られたばかりの新しいお茶よりも、半年から1年くらい寝かせることで、香りと味わいがさらに深くなります。
祁門紅茶の茶畑は山々に囲まれた場所にあり、森の中に茶畑が広がっています。ここは、一年を通して雨がよく降り、湿度が高く、気温も涼しいため、お茶の木がよく育ちます。
特に重要なのが、霧の存在です。
茶葉の新芽には「テアニン」という成分が多く含まれています。テアニンはアミノ酸の一種で、通常、日光をたくさん浴びるとテアニンはカテキンやポリフェノールといった別の成分に変わってしまうのですが、霧によって日光が遮られることでこのテアニンの変化が抑えられます。このテアニンが、祁門紅茶特有のまろやかで甘い味わいや香りを引き出しています。
歴史
祁門県は、千年以上も前から茶葉の産地として知られていて、その歴史は、唐の時代に書かれた記録にも残っています。
祁門県で現在のような紅茶が作られ始めたのは、1870年代の中頃のことです。
それ以前、祁門では主に緑茶が生産されていましたが、当時の中国では紅茶の需要が高まっており、ある茶農家が福建省の紅茶製法を学び、それを祁門の茶葉に応用したことで、現在のキームン紅茶が生まれました。その独特の香りと味わいがヨーロッパで高く評価され、特にイギリスでは王室や上流階級の間で人気を博しました
福建省で作られていた正山小種(ラプサンスーチョン)という紅茶を参考にして作られたと言われています。
祁門紅茶を初めて作った人については、いくつかの説があるんですが、現在では胡元龍(こげんりゅう)という人が始めたという話が有力です。胡元龍は、当時あまり売れていなかった地元の緑茶に代わるものとして、紅茶作りを始めました。そして、祁門紅茶はすぐに福建省や江西省の紅茶を上回る品質だと評判になりました。
世界での人気
キームン紅茶は、その優れた品質で、古くから上流階級に愛飲されてきました。
20世紀初頭には輸出量が3000トンを超え、1915年のサンフランシスコ万国博覧会では最高金賞を受賞し、その名声をさらに高めました。
1939年から1940年にかけては、アメリカ市場でキームン紅茶が最も高価な紅茶として取引されていました。この時代には一般庶民には手が届かない贅沢品であり、裕福な階級の象徴的な飲み物とされていました。
特にルーズベルト大統領夫妻が愛飲したことで知られています。毎日の食卓には欠かせない存在であり、キームン紅茶をこよなく愛したといわれています。
また、イギリスでもキームン紅茶は特別な地位を築いており、ビクトリア女王の誕生日に献上茶として贈られました。美食家としても知られるビクトリア女王は、この紅茶を非常に気に入り、宮廷でも愛飲されました。
戦後も品質向上が続けられ、1987年にはベルギーで開催されたモンドセレクションで最優秀金賞を受賞しています。