ジャスミン茶 (茉莉花茶)は、中国茶の中でも特に有名な茶の一種で、中国北部を中心に広く親しまれている花茶に分類されます。茶葉にモクセイ科ソケイ属の植物、茉莉花茶(アラビアジャスミン)の花の香りを吸着させたもので、香り豊かでありながら、茶そのものの味を損なわないバランスが特徴です。ジャスミン茶はフレーバーティーの一種であり、花茶を含めて中国茶を「七大茶」と分類する場合、その代表的な存在となります。
ジャスミン茶 とは
コンビニやスーパーなどで気軽に購入できる ジャスミン茶 ですが、茶葉から淹れると、その特有の香りや味わいをより一層楽しむことができます。
ジャスミン茶は中国茶の一種で、中国では「茉莉花茶」と呼ばれます。原料となるジャスミンの花は亜熱帯地域が原産で、イラン、インド、東南アジアなどで広く生産されています。その強い香りは、香水やアロマオイルにも利用されており、700kgの花からわずか1kgしか採れないジャスミン精油は非常に高級品とされています。
ジャスミン茶は、ジャスミンの葉や花を加工して作るわけではなく、ベースである緑茶にジャスミンの花の香りを吸着させることで作られます。
そのため、美味しいジャスミン茶を作るには、ベースとなる緑茶の品質が非常に重要です。春の一番茶を使用することが理想的であり、茶葉の摘み方、肥料の使用の有無、茶園の標高などが茶葉の質に大きく影響します。一方、香りを引き出すジャスミンの花は、夏以降に収穫されたものが最適とされています。夏前は雨が多く、花が安価に手に入るものの、香りが弱くなるためです。
ジャスミンの花は夕方に摘み取られ、茶葉と混ぜられます。夜に開花した花は新鮮な香りを放ち、その香りが一晩かけて茶葉に吸収されます。この工程が、ジャスミン茶特有の香りを決定付けます。また、香り付けの作業を何回繰り返すかによっても、最終的な香りの深みや持続性が変わります。この繊細な製造プロセスが、ジャスミン茶の香りと味わいを生み出し、その優劣を左右するのです。
製法と飲み方
ジャスミン茶は一般的に緑茶をベースにして作られますが、白茶や烏龍茶、プーアル茶をベースにしたものも存在します。茶葉にマツリカの花の香りを吸着させる製法は非常に繊細で、ジャスミンの花が開花する夜間に行われます。香り付けの工程は何度も繰り返され、高級なジャスミン茶では「七窨一提」(香り付けを7回、最後に花を混ぜる1回の工程)と呼ばれるぜいたくな手法が取られることもあります。
お茶は蓋付きの陶磁器製カップや耐熱ガラス製のコップで楽しむことが一般的です。湯を注ぐと、茶葉が開いて形の変化を楽しむことができるため、特に工芸茶ではその視覚的な美しさも魅力です。
ジャスミン茶に含まれる香り成分にはリラックス効果があり、またテアニンによる集中力アップも期待されます。そのほか、飲用することでストレス軽減や気分の落ち着きが得られるとして、健康や美容の面からも人気が高まっています。
ジャスミン茶が広く普及したのは明代以降で、固形茶の製造が中止され、茶葉を使ったお茶が中心となる中で登場しました。現在では、華北の来訪者を歓迎する場面でジャスミン茶が供されるなど、中国文化に深く根付いた存在となっています。
ジャスミン茶 の起源と歴史
ジャスミン茶(茉莉花茶)は、中国の福建省福州市が発祥とされ、17~18世紀頃に生まれたとされています。起源には、中国の茶商人が品質が落ちた売れ残りの茶葉にジャスミンの香りを移し、高値で販売したという説があります。このように、花の香りを緑茶や烏龍茶などに移したお茶は「花茶」と呼ばれ、現在の中国茶では一般的な製法となっています。
また、16世紀頃には茶葉と花冠を重ねて香りを吸着させる「窨(いん)」の技術が完成していたとされています。
なぜジャスミンなのか?
香りの出る花は数多くありますが、ジャスミンが選ばれたのには理由があります。他の花(百合、牡丹、木蓮など)も試されたものの、以下の理由からジャスミンが最適とされました
- 茶葉に香りを移しやすい性質を持つ。
- 茶葉の味を変化させにくい。
ジャスミンの香りは爽やかで繊細なため、茶葉本来の味わいを損なわず、豊かな風味を引き出します。
製造工程
ジャスミン茶の製造工程は、茶葉とジャスミンの花の香りを吸着させる伝統的な手法に基づいています。以下、その基本的な流れと高級品、中級品での違いについて説明します。
製造工程の概要
原料の準備
緑茶や烏龍茶の茶葉を乾燥させ、水分量を約4%に調整します。これにジャスミンの花(茉莉花)を混合します。花は半開きで香りが完全な状態のものを摘み取ります。
香り付け(窨花)
茶葉とジャスミンの花を交互に何層にも重ね、花の香りを茶葉に吸着させます。この工程では、花が放つ香りが茶葉に移るように時間をかけて管理されます。一般的にこの作業は4~5時間行われ、茶葉の温度が45度程度に上昇します。
温度管理
時間が経過した後、茶葉を放冷し、20分ごとに攪拌して温度を約35度に下げます。この工程は5~6時間続けられます。
花の分離と乾燥
香りを移した後、花と茶葉を分離し、茶葉を乾燥させて水分量を約6%に調整します。これにより、茶葉の保存性が向上します。
仕上げ
高級品では十分に香りを吸着させた茶葉から花冠をすべて取り除き、清潔で高品質な製品として出荷されます。一方、中級品以下では、香りを補うために乾燥させたジャスミンの花冠を混ぜ込むことがあります。
高級品と中級品の違い
高級品
繰り返し窨花の工程を実施し、濃厚で上質な香りを茶葉に吸着させます。最終的には茶葉のみが製品化され、花冠は取り除かれます。
中級品以下
香り付けの回数が少ないため、乾燥した花冠を混ぜて香りを補い出荷します。このため、香りの持続性や深みが高級品には及ばないことがあります。
注意点
香り付けの回数を増やすほど濃厚な香りが得られますが、ジャスミンの花冠が持つ水分が茶葉を変質させるリスクもあるため、適切な管理と回数の調整が必要です。
ジャスミン茶の製造は、その香りの強弱や品質に大きな影響を与える繊細なプロセスであり、技術と経験が求められます。
香りを移す「吸着」工程
茉莉花茶の製法で特に重要なのが、茶葉に香りを吸着させる工程です。この工程が、茉莉花茶の品質と香りを決定づけます。
- 下準備:茶葉の水分を減らし、35℃程度に調整します。
- 吸着:ジャスミンの花を茶葉に層状に重ね、自然な熱で香りを移します。この工程を最大7回繰り返します。
- 乾燥:香りを移し終えた茶葉を乾燥させ、品質を安定させます。
高級な茉莉花茶ほど、この吸着工程を何度も繰り返し、香りがしっかりと移されたものになります。
ジャスミン茶 とさんぴん茶の違い
沖縄の「さんぴん茶」は、中国のジャスミン茶を日本人向けにアレンジしたものです。本場のジャスミン茶は、砂糖やミルクを入れて飲むことが多く、その香りが強すぎるため、日本人にはやや馴染みにくいものでした。そのため、沖縄では香りや味を調整し、飲みやすくしたものが「さんぴん茶」として親しまれるようになりました。
ジャスミン茶 の種類
ジャスミン茶には、使用される茶葉や花の種類、製法、ランクによっていくつかの種類があります。
茉莉銀毫
福建省の緑茶を使い、花の香りを移して作られるジャスミン茶。上品で甘みがあり、北京の若者に人気があります。
茉莉銀毫は、「茉莉花茶の故郷」と称される広西省横県で生産される特級茉莉花茶です。このジャスミン茶は、高品質の緑茶をベースに、横県産の新鮮なジャスミンのつぼみで香り付けされています。
茉莉銀毫には、雲南省の高山茶園で生産された烘青緑茶「小松針」が使用されています。この茶葉は、松の針のようにまっすぐに仕上げられ、柔らかい葉底と「白毫」と呼ばれる産毛が際立つ高品質なものです。
香り付けの工程である窨花は、広西横県にある専門のジャスミン茶工場で行われています。香り付けには、当日に摘み取られた新鮮なジャスミンのつぼみが使用され、茶葉とジャスミン花の配合、温度、湿度が細かく管理されます。経験豊富な職人が夜通し行うこの作業は、5回繰り返され、各工程で新鮮なジャスミンの花が使用されます。
ジャスミン茶 の味わい
茉莉花茶の味は、一般的な日本茶と比べて控えめで苦味が少なく、軽やかです。茶葉を炒って仕上げるため、渋みが少なくまろやかな口当たりが特徴です。
ジャスミン茶 の色合い
茉莉花茶の水色は、茶葉のグレードや仕上げによって変化します。黄金色に近いものから緑がかったものまで、色の幅が広いのが特徴です。高級品ほど透明感のある美しい色合いが楽しめます。
ジャスミン茶 の香り
茉莉花茶最大の特徴は、ジャスミンの花を感じさせる香りです。特に吸着法で香りを付けた茉莉花茶は、香りが茶葉にしっかり吸着しており、一般的な香料を用いたフレーバーティーよりも香りが長続きします。
ジャスミン茶 の茶葉
茉莉花茶に使用される茶葉は、一般的にカットリーフが多いですが、高級品では一芯二葉や一枚芽など丁寧に選ばれた茶葉が使用されます。これにより、見た目も美しく、味わいも繊細です。
ジャスミン茶 に含まれるカフェイン
ジャスミン茶には、ベースとなる緑茶や烏龍茶と同じくカフェインが含まれています。緑茶や烏龍茶には、一般的に100mlあたり約20mgのカフェインが含まれています。
妊婦の方の1日のカフェイン摂取目安量は約200mgとされており、ジャスミン茶であれば1日6~8杯が限度と考えられます。しかし、他のカフェインを含む食品(コーヒー、チョコレート、コーラなど)を摂取する場合は、全体のバランスを考慮し、ジャスミン茶の量を控えめにすることをおすすめします。
ジャスミン茶 の美味しい淹れ方
ジャスミン茶をより美味しく楽しむためには、正しい淹れ方を知ることが大切です。急須やヤカン、水出しなど、お好みに合わせた方法を試してみましょう。
急須で淹れる場合
- 茶葉の量: 3g
- 湯量: 200~300ml
- 湯温: 80~90℃
- 蒸らし時間: 30秒~1分程度
急須で淹れたジャスミン茶は、1煎目から4煎目まで楽しめます。2煎目以降は蒸らし時間を少し長めにして、風味や香りの変化を楽しみましょう。香りを引き出したい場合は90℃以上の熱湯を、味を楽しみたい場合は80~85℃のお湯を使うのがおすすめです。沸騰したお湯を一度ティーポットやカップに移して冷ますと、80℃程度になります。
ヤカンで淹れる場合
- 1.茶葉の量: 5~8g
- 2.湯量: 1L
- 3.手順: 沸騰したお湯に茶葉を入れ、5分程度抽出します。
ヤカンで淹れたジャスミン茶は、たっぷりと作れるので大人数で楽しむ際に便利です。
水出しの場合
- 茶葉の量: 通常の倍程度(6~8g)
- 手順: 冷水に茶葉を入れ、冷蔵庫で数時間抽出します。
水出しジャスミン茶は、すっきりとした味わいで夏場にぴったりです。抽出時間や茶葉の量はお好みで調整してください。
ジャスミン茶の有名産地
- 福建省 福州:中国全体のジャスミン茶の約70%が生産されている一大産地。高品質な小龍珠や工芸茶なども多く生産されています。
- 広西チワン自治区 横県:「中国のジャスミンの故郷」として知られ、中国最大のジャスミン生産地。香りの良い茉莉花茶が多く生産されます。
- 江蘇省 蘇州:緑茶の名産地としても有名で、茉莉花茶の製造にも優れた技術が活かされています。
- 浙江省 金華:緑茶をベースにした茉莉花茶が特徴。香り高く、見た目も美しい茶葉が多いです。
- 四川省:水量豊かな環境で育まれた茶葉と天然のジャスミンを使用した、フレッシュでスッキリした味わいが特徴です。
まとめ
ジャスミン茶(茉莉花茶)は、ジャスミンの香りを吸着させた茶葉から作られ、香り高く長く楽しめるお茶です。その歴史は交易に由来し、特別な製法によって完成された独自のお茶文化を持っています。淹れ方や選び方次第で、自分好みの一杯を見つけることができるでしょう。ぜひ、茉莉花茶の豊かな香りと味わいを楽しんでみてください。