中国の 紅茶 (ホンチャ)は、完全発酵させた茶葉から作られるお茶で、世界中で親しまれています。中国では、茶葉の色が赤みを帯びていることから「紅茶」と呼ばれます。その歴史は17世紀に遡り、福建省武夷山で生産された「正山小種(ラプサンスーチョン)」が最初の紅茶とされています。
中国紅茶について
紅茶が中国茶の一つであることに驚く人もいるかもしれません。一般的に、紅茶は英国が植民地時代にインドで発展させたもので、インドやスリランカのプランテーションで栽培されたというイメージが強いからです。しかし、紅茶の起源は中国にあり、この点が誤解されることが少なくありません。
紅茶が中国で生産され始めた時期については、専門家の間でも議論があります。一つの説は、ヨーロッパへの輸出が始まる前から、中国で紅茶が生産されていたとするもの。もう一つは、ヨーロッパの嗜好に合わせて輸出用に紅茶が作られるようになったとする説です。
筆者の個人的な見解として、17世紀中葉から18世紀初頭の中国では、「紅茶」という明確な区分がまだ存在していなかったと考えています。当時、英国では紅茶は「ブラックティー」と呼ばれていましたが、その言葉が生まれる以前は、中国茶全般を「ボヒー」(武夷の訛り)と呼んでいました。これは、中国茶の輸入が本格化した時期に、武夷茶が主力商品だったことを示しています。また、「松羅茶」は「シングロ」、「水平珠茶」は「ハイスン」として伝わり、中国の地名や茶名が現地の発音でそのまま使われていたことからも、紅茶という明確な分類が当時は存在していなかった可能性が高いと考えられます。
当時の中国貿易は、広州の十三行(公行)という御用商人だけが貿易を許された管理貿易の形を取っていました。外国人が自由に商品を選ぶことはできず、英国人の嗜好に合う濃い風味のお茶が公行を通じて求められ、最終的に紅茶の原型となる商品が誕生したのではないかと思われます。その後、紅茶の生産が輸出専用として拡大する中で、「紅茶」という分野が独立したのではないかというのが筆者の考えです。このように、紅茶の誕生は中国茶と国際貿易の歴史的背景が深く関わっているのではないかと思います。
紅茶の製造工程
紅茶の製造工程の特徴
紅茶は、萎凋から発酵にかけての工程で風味が大きく左右されるため、製造過程には高い技術と経験が求められます。特に、発酵の進行具合を正確に見極めることが、紅茶の品質を決定づける重要な要素です。この発酵工程こそが、紅茶が青茶から分化し、独自の茶種として発展した理由の一つといえます。
紅茶の製造工程
紅茶の製造工程は、青茶の製造過程と似ていますが、殺青の工程がないことと、発酵工程が加えられている点が大きな違いです。青茶では、自然発酵を殺青(熱処理)によって途中で止めますが、紅茶は発酵を完全に進めるための工程が設けられています。これにより、紅茶は青茶の半発酵とは異なる、独特の深い香りと味わいを持つ完全発酵茶となります。以下は紅茶の一般的な製造工程です。
1. 萎凋(いちょう)
摘まれた茶葉を広げ、自然に萎らせる工程です。この段階で茶葉の水分を適度に減らし、柔らかくします。同時に酵素の働きによって、茶葉の自然発酵が徐々に始まります。
2. 初捻(しょねん)
茶葉を揉捻(じゅうねん)して、茶葉内の細胞を破壊する工程です。これにより、茶葉内の酵素と空気が触れやすくなり、次の発酵工程が進みやすくなります。また、この工程で茶葉の形が整えられます。
3. 渥堆(おくたい)
発酵を促進するための工程です。揉捻された茶葉を積み重ね、一定の温度や湿度を保ちながら発酵を進めます。この段階で茶葉は茶色や赤褐色に変わり、紅茶特有の香りや風味が形成されます。
4. 復揉(ふくじゅう)
発酵が完了した茶葉を再度揉捻します。この工程で茶葉の形状がさらに整えられるとともに、風味が均一化されます。
5. 乾燥(かんそう)
最後に茶葉を乾燥させ、水分を完全に取り除きます。この工程で茶葉の保存性が高まり、紅茶としての製品が完成します。
工夫紅茶の製造工程
工夫紅茶の製造工程は、銘柄による大きな違いはなく、一般的な紅茶の製造工程ともほぼ同様です。ただし、「工夫紅茶」の名の通り、細部にわたる丁寧な工程が特徴で、高品質な紅茶を生み出します。以下に、陳椽教授編纂の『製茶学』に基づいてその工程を解説します。
工夫紅茶の製造工程
1. 萎凋(いちょう)
茶葉の水分を減らし、柔らかくする工程です。以下の3つの方法があります:
- 萎凋槽萎凋(いちょうそういちょう): 半機械式で、温度や湿度のコントロールが可能な主流の方法。
- 日光萎凋: 日光を利用する自然の方法。ただし、気候条件に左右されやすい。
- 室内自然萎凋: 室内で自然に萎凋させる方法。こちらも管理が難しいため、現在では萎凋槽萎凋が一般的です。
2. 揉捻(じゅうねん)
茶葉を揉んで細胞を破壊し、酵素が空気に触れることで発酵を促進させます。この工程は機械化されており、以下の手順で行われます
- 一度に150kg程度の茶葉を揉捻機に投入。
- 約30分間の揉捻を3回繰り返す。
- 加圧と減圧を交互に行い、茶葉をしっかり揉む。
- 最後に固まった茶葉を解きほぐして終了。
3.発酵(はっこう)
発酵は「工夫紅茶」の品質を左右する最も重要な工程です。発酵には以下の3つの要素が重要です
- 温度:適切な発酵温度を保つ。
- 湿度:茶葉の湿り気を維持する。
- 通気:茶葉を広げて積む厚み(通常8~12cm)で調整。
発酵時間は2~3時間程度で、この間に茶葉が赤褐色に変化し、紅茶特有の香りが生まれます。
4. 乾燥(かんそう)
乾燥は「毛火」と「足火」の2段階で行います
- 毛火(もうか):110~120℃で10~15分加熱。
- 冷却:40分程度茶葉を冷やす。
- 足火(あしか):85~95℃で15~20分加熱。
この工程で茶葉の水分を完全に取り除き、保存性を高めます。
5. 選別と補火(ほび)
乾燥後、荒茶(毛茶)を選別し、不純物を取り除きます。最終的に補火(火入れ)を行い、風味を安定させて製品化します。
主な中国紅茶の種類
1. 祁門紅茶(キームンホンチャ):安徽省祁門県で生産される紅茶で、世界三大紅茶の一つに数えられます。蘭や果実のような香りと、甘みのある味わいが特徴です。
2. 正山小種(ラプサンスーチョン):福建省武夷山で生産される紅茶で、松葉で燻製する独特の製法により、スモーキーな香りが特徴です。
3. 滇紅茶(テンホンチャ):雲南省で生産される紅茶で、濃厚な味わいと金色の芽が特徴です。特に「金芽滇紅」は高級品として知られています。
中国紅茶の特徴
中国紅茶は、渋みが少なく、甘みと香りが豊かなのが特徴です。特に祁門紅茶は、蘭や果実のような香りがあり、ストレートで飲むのに適しています。また、正山小種のスモーキーな香りは、他の紅茶にはない独特の風味を持っています。
美味しい淹れ方
1. 茶葉の量:ティーカップ一杯(約150ml)に対して、約3gの茶葉を使用します。
2. お湯の温度:95℃前後の熱湯を使用します。
3. 抽出時間:3〜5分間蒸らします。お好みに合わせて調整してください。
4. 注ぎ方:抽出後、茶こしを使ってカップに注ぎます。
中国紅茶は、その豊かな風味と香りから、多くの人々に愛されています。ぜひ一度お試しください。