黒茶 は、中国茶の中で発酵度が高い「後発酵茶(こうはっこうちゃ)」に分類されるお茶です。その特徴は、独特な風味や香りにあり、プーアル茶や碁石茶(ごいしちゃ)が代表的な種類として知られています。
後発酵茶は、茶葉を一度加熱して酸化を止めた後、乾燥させてカビや乳酸菌などの微生物を使って発酵させて作られます。この微生物による発酵が、黒茶特有の味わいと香りを生み出します。
はじめに:中国発祥の黒茶とは?
中国茶の種類について
中国茶は長い歴史を持ち、2000年に発行された「中国名茶誌」では、なんと1017種類ものお茶が記載されています。
現在、中国茶は茶葉の発酵度合いを基準に、以下の6つの種類に分類されています。
- 緑茶
- 白茶
- 黄茶
- 青茶
- 紅茶
- 黒茶
これら6種類は「六大茶類」と呼ばれています。さらに近年では、ジャスミン茶などの「花茶」を加えて7種類に分類するのが一般的になっています。
これらの中で黒茶は、その独特な製造工程と風味から特に個性的な存在として親しまれており、中国茶の豊かさを象徴する1つです。
黒茶の特徴って?
黒茶は、中国茶の中でも発酵度が高い特徴を持つお茶です。その名前の由来は、茶葉や抽出液の色が濃いことから「黒茶」と呼ばれています。
特に中国南部の地域で愛され、古くから健康茶として親しまれてきました。黒茶は、その独特の風味や効能から、近年では世界中で注目を集めています。
黒茶は、茶葉の自然発酵を一旦殺青で止めた後、醗酵菌の作用によって発酵させる「後発酵茶」です。そのため、独特の風味と長期間の保存性が特徴です。一般的に黒茶は普洱茶(プーアル茶)と同一視されがちですが、広西チワン族自治区の六堡茶など、他の種類も含む広い意味をもつ言葉です。
発酵の力が生む深い味わい
黒茶の最大の特徴は「後発酵」というプロセスです。これにより製造後も茶葉の発酵が進み、時間の経過とともに風味が変化します。
この発酵過程により、まろやかで深みのある味わいと独特の香りが生まれます。他の中国茶(緑茶や白茶)と比べると、
渋みが少なく飲みやすいのが特徴です。
陳茶としての価値
通常、お茶は新茶が価値を持ちますが、黒茶は例外で、「陳茶」と呼ばれる長期間熟成させたものが高く評価されます。熟成期間が長いほど風味が深まり、希少価値が上がります。しかし、需要の増加により、長期間熟成させる余裕が少なくなっているのが現状です。
形状の多様性
黒茶は再加工されることが多く、レンガ状やお碗状に固形茶として加工されるのが一般的です。他の六大茶が茶葉のままで製品化されることが多いのに対し、黒茶は加工された形状の製品が主流です。
普洱茶の人気
香港や中国南部で「飲茶」を通じて普洱茶を知る日本人が増えたほか、ダイエット効果があるという評判から普洱茶の愛好者が多くなっています。さらに、近年ではペットボトルや缶入りの普洱茶も販売され、手軽に楽しめるようになり、普洱茶がより一般的なお茶として親しまれるようになっています。
黒茶の製造工程
黒茶は独特の製法を持つ後発酵茶で、その製造工程は製品の種類によって異なります。以下に、一般的な黒茶の製造工程と、固形茶および「ろう装」黒茶の工程を分けて説明します。
一般的な黒茶の製造工程
黒茶の基本的な製造工程は以下の通りです
1.萎凋(いちょう)
茶葉を萎らせて水分を減らし、柔らかくする工程。
2.揉捻(じゅうねん)
茶葉を揉んで細胞を破壊し、発酵を促す準備をする。
3.発酵(はっこう)
渥堆(おくたい)と呼ばれる工程で、茶葉を積み重ね、一定の温度・湿度を保ちながら発酵を進める。
4.烘青(こうせい)
茶葉を加熱して乾燥させ、発酵を止める。
この工程で完成するのは散茶(葉茶)としての黒茶です。これが黒茶そのものの基本形であり、固形茶に加工される前段階の製品となります。
黒茶の固形茶製造工程
固形茶(餅茶、沱茶など)は、散茶をさらに加工して作られます
1.炒青緑茶または晒青緑茶を原料とする
原料として緑茶を使用。
2.蒸気加熱・蒸気加湿
一度乾燥させた茶葉を再び蒸し、柔らかくして扱いやすくする。
3.柔捻(じゅうねん)
蒸した茶葉を揉み、形を整えやすくする。
4.渥堆(おくたい)
茶葉を積み重ねて発酵を進める。
5.成型
麻袋などに茶葉を詰め、足で踏み固めた後、専用の型でプレスして成型する。
6.乾燥
成型された茶葉をさらに加熱して乾燥させ、完成品とする。
ろう装黒茶の製造工程
「ろう装」とは、竹籠に詰めた状態で発酵を進める黒茶の特別な加工方法です:
1.炒青緑茶または晒青緑茶を原料とする
散茶を基に加工を始める。
2.蒸気加熱・蒸気加湿
茶葉を再び蒸して柔らかくする。
3.柔捻
茶葉を揉んで形を整える。
4.成型
蒸した茶葉を熱いうちに竹籠に詰めて密封。
5.後発酵
密封された茶葉を寝かせて熟成させる間に、後発酵を進める。
製造工程のポイント
黒茶の製造では、発酵を進める渥堆や後発酵が品質を大きく左右します。特に固形茶やろう装茶では、成型や熟成の工程が独特で、製品に深い味わいと保存性を与えます。また、黒茶は一般的に緑茶を原料とすることから、製造工程の中で再加熱・加湿が重要な役割を果たします。
このように、黒茶はその工程の多様性と手間によって、独自の風味と価値が生まれるお茶です。
黒茶の種類:地域ごとの多彩な味わい
黒茶は生産地によって種類が分かれています。地域ごとに個性豊かな味わいが楽しめます。
・雲南黒茶
・湖南黒茶
・四川黒茶
・湖北黒茶
黒茶の代表プーアル茶(雲南省)
プーアル茶は、雲南省で生産される黒茶の代表格です。熟成期間によって味が変わるため、長期保存でより深みのある風味が楽しめます。
黒茶の中でも特に有名なのがプーアル茶です。プーアル茶は、「雲南黒茶」に属し、その名の通り中国の雲南省で作られる黒茶です。漢字では「普洱茶」と書きます。
プーアル茶の形状の種類
プーアル茶は、茶葉の形状によって以下の2種類に分けられます。
- 散茶(さんちゃ)茶葉を固めず、バラバラの状態で仕上げたもの。
- 緊圧茶(きんあつちゃ)茶葉をぎゅっと固めたもので、「固形茶」とも呼ばれます。
緊圧茶はさらに形状の違いによって、以下のような種類があります。
餅茶(へいちゃ)円盤状に固めたもの。
沱茶(とうちゃ)球状や碗型に固めたもの。
製法による分類
プーアル茶は製法の違いにより、以下の2つに分けられます。
- 生茶(せいちゃ)自然発酵で作られるもので、花や蜜のような甘い香りが特徴。時間をかけて熟成され、味わいが変化していきます。
- 熟茶(じゅくちゃ)人工的な発酵を行い、短期間で仕上げられるもの。濃厚でまろやかな風味が特徴です。
熟茶の製造過程には、「握推(あくたい)」と呼ばれる独自の工程があります。この握推は、茶葉を湿らせた状態にしてから積み重ね、空気中に存在する麹菌を茶葉に繁殖させることで発酵を進め、熟成させる方法です。この工程によって、特有の深い味わいや香りが生まれます。
プーアル茶は形状や製法によって多様な種類があり、それぞれに異なる風味や香りを楽しめるのが魅力です。
湖南黒茶(湖南省)
湖南黒茶は、独特の圧縮茶「茯磚茶」として知られています。香りが豊かで、微生物による発酵が生む独自の風味が特徴です。
四川辺茶(四川省)
四川省で生産される辺茶は、主に少数民族の伝統的な飲み物として親しまれています。圧縮して持ち運びやすい形状が特徴です。
黒茶の健康効果:古来から愛される理由
黒茶は健康茶としても広く知られています。以下のような効果が期待できます。
- 消化促進:黒茶に含まれる酵素が胃腸を整え、消化を助けます。
- 体を温める効果:体を内側から温めるため、冷え性の改善に役立ちます。
- ダイエット:脂肪の吸収を抑える成分が含まれており、健康的な体重管理に役立ちます。
- 美容効果:抗酸化作用が肌を若々しく保つ助けになります。
カフェイン含有量について
黒茶には少量のカフェインが含まれています。ただし、日本茶(緑茶)などの不発酵茶や、わずかに発酵されている中国茶(青茶や白茶など)に比べると、黒茶のカフェイン含有量は比較的少ないとされています。そのため、カフェインを控えたい方でも比較的飲みやすいお茶として親しまれています。
黒茶のおいしい淹れ方
黒茶を美味しく入れるには、洗茶(せんちゃ)という工程が欠かせません。洗茶とは、茶葉を急須に入れ、少量のお湯を注いで軽く蒸らし、そのお湯を飲まずに捨てる方法です。この工程には以下のような目的があります。
茶葉の表面についたほこりや汚れを取り除く。
硬く固まった茶葉を開きやすくする。
洗茶の方法
- 茶葉を入れる
急須に黒茶の茶葉を適量入れます(目安は5g程度)。 - お湯を注ぐ
沸騰した熱湯を少量注ぎます。 - 蒸らす
10秒ほど軽く蒸らし、お茶を抽出する必要はありません。 - お湯を捨てる
蒸らしたお湯をすべて捨てます。この時点で茶葉が開き、準備が整います。
本抽出の方法
- 熱湯を注ぐ
再度たっぷりと熱湯を注ぎます。熱湯を使うことで黒茶の深い味わいが引き出されます。 - 蒸らす
40秒ほど蒸らします。 - 茶碗に注ぐ
急須から均等に茶碗に注ぎ、出来上がりです。
ポイント
洗茶と本抽出では、蒸らす時間が異なるため注意してください。
抽出時間や茶葉の量はお好みに応じて調整できますが、熱湯を使用することで黒茶の濃厚な風味を楽しむことができます。
この手順で入れると、黒茶特有のコクとまろやかさが引き立ち、美味しい一杯を楽しめます。
まとめ:黒茶の魅力を生活に取り入れよう
黒茶の水色は、その名のとおり黒や黒褐色をしていますが、発酵度や種類によって微妙に異なります。例えば、プーアル茶の水色は真っ黒ではなく、濃い紅色をしており、紅茶に近い色合いです。
味わいも種類ごとにさまざまですが、いずれも後発酵による特徴を持っています。酸味やまろやかな甘さが感じられるものが多く、中には漬物のような独特の風味を持つものもあります。甘みが際立つ黒茶が一般的ですが、ほんのり苦みを感じるタイプもあり、個性的な味わいが魅力です。
黒茶はその深い味わいと健康効果で、日常生活に取り入れる価値のある飲み物です。
初心者でも手軽に楽しめるので、ぜひ一度試してみてください。自分好みの黒茶を見つけてみるのもたのしいですよ。