<中国茶「黒茶の作り方」>
黒茶がほかの中国茶と違うところは、「堆積(たいせき)」という主に麹(こうじ)カビ、そして酵母(こうぼ)の菌による発酵が含まれることである。
中国茶の分類は発酵度によって不発酵(緑茶)や半発酵(青茶─烏龍茶)、全発酵(紅茶)などと分けている。しかし、厳密に言うならば、茶葉が酸化をしているだけで発酵ではない。
りんごをむいてほっておくと茶色く酸化するが、あれと同じことだ。
しかし、そんなことを言っていても混乱するだけなので、このサイトでも「発酵」という表現を使っている。
黒茶の発酵は、チーズと同じように微生物によって発酵する行程がある。
黒茶の製法は、ブランドによって「堆積」をするタイミングが違うので、表にしてみた。
日本でも有名な「プーアル茶」は緑茶の状態から堆積する。
黒茶・緊圧茶の製造工程図
▼緑茶の行程 | ▼黒茶(散茶)の製造工程 | ▼緊圧茶の製造工程 | |||||||||||
生葉 | ┌ | → | 【湖南黒毛茶】 | → | 蒸圧→加圧成形→乾燥 | ||||||||
↓ | | | ┌────────┘ | |||||||||||
殺青 | | | 【湖南茯磚・黒磚・花磚・湘尖茶】 | |||||||||||
↓ | | | ||||||||||||
初揉── | ─ | → | 【堆積】 | → | 再揉─ | → | 乾燥── | ┴ | → | 【六堡茶】── | → | 蒸圧→加圧成形→乾燥 | |
| | ┌────────┘ | ||||||||||||
| | 【籠入り六堡茶】 | ||||||||||||
| | |||||||||||||
| | ┌ | 蒸圧→加圧成形→乾燥 | |||||||||||
| | │ | ┌────────┘ | |||||||||||
| | │ | 【康磚・金尖】 | |||||||||||
| | │ | ||||||||||||
| | ┌ | → | 【做庄茶】── | ┼ | 蒸圧→加圧成形→【焼包】→乾燥 | ||||||||
| | | | │ | ┌───────────┘ | ||||||||||
| | | | │ | 【方包茶】 | ||||||||||
| | | | │ | |||||||||||
| | ┌ | → | 再揉─ | → | 【堆積】 | → | 乾燥── | ┤ | └ | 蒸圧→加圧成形→【発花】→乾燥 | |||
| | | | | | ┌───────────┘ | ||||||||||
| | | | | | 【四川茯磚】 | ||||||||||
↓ | | | | | |||||||||||
乾燥── | ┤ | └ | → | 【老青茶】── | → | 蒸圧→加圧成形→乾燥 | |||||||
| | | | ┌────────┘ | |||||||||||
| | ├ | → | 生茶:【後熟】──────── | ┐ | 【青磚茶】 | ||||||||
| | | | 熟茶: | ↓ | ||||||||||
↓ | └ | → | 【堆積】 | → | 乾燥─ | → | 篩い分け | ─ | → | 【プーアル茶】 | → | 蒸圧→加圧成形→乾燥 | |
【緑茶】 | ┌────────┘ | ||||||||||||
【プーアル緊圧茶】 | |||||||||||||
黒茶の各製造工程
▼ 生葉
[特徴]
古葉と茎を多く含む、茎の含有量は一般に10〜20%(プーアル茶は含まない)。
多くは成熟した茶樹からつくられる。
[品種]
大葉種(雲南・広西…)
小葉種(四川・湖南・湖北…)
[摘採時期]
四川南路辺茶(5月下旬・8月下旬〜9月上旬/成長した枝)
四川西路辺茶(2年に1回5月下旬/1〜2年間成長した枝)
湖南黒毛茶(5月下旬・9月中旬/1芯3〜6葉 )
湖北老青茶(5月下旬・7月中旬〜9月/1芯5〜6葉、赤茎)
雲南プーアル茶(6〜7月・8〜10月/1芯3〜5葉)
広西六堡茶(5月・7月/1芯2〜4葉)
▼ 殺青
一般的には280〜320度で5〜7分釜炒りする。(六堡茶は150度の低温殺青を行う)
黒茶康磚茶・金尖茶などは、蒸熱で殺青を行う。
▼ 初揉
茶葉を揉むことによって、組織や細胞を破壊し、茶の侵出をよくするための作業。
▼ 堆積
発酵室に茶葉を積み上げ(15cm〜2m)、一定の温度と湿度を保つことによって微生物(主に*麹菌)を繁殖させ、黒茶独特の香りを醸成する。
[種類] | [温度] | [湿度] | [時間] |
四川南路辺茶・西路辺茶 | 25〜45度 | 約85% | 8〜18時間 |
湘南黒毛茶 | 65〜70度 | 80〜85% | 12〜14日 |
湖北老青茶 | 50〜65度 | 25〜35% | 6〜9日 |
雲南プーアル茶 | 40〜60度 | 25〜35% | 約1か月 |
広西六堡茶 | 40〜50度 | 12〜20時間 |
*コウジカビ属(アスペルギルス・グラカス/A.glaucus、アスペルギルス・ニガー/A.niger…)が多く、酵母属(カンディダ/Candida)など見られる。
▼ 後熟(プーアル茶の伝統的製法)
緑茶と同じ行程でつくられたプーアル茶を「堆積」しないで、暗くて涼しい場所に数年間おいておく。
後熟によって、苦みや渋みが消え、プーアル茶独特の「陳香(ツンシャン)」 がするまろやかな味の茶になる。
しかし、完成するまで長い年月がかかるため、最近では一定の湿度と温度を与えて2〜3年間で熟成させてつくる「湿倉茶」がつくられている。
伝統的な自然な環境で年月をかけて熟成させるプーアル茶は「乾倉茶」と呼ばれるが、ほとんど生産されていない。昔つくられたものが一部の収集家たちに高値で購入されている。
生茶・生餅:「後熟」によってつくられたプーアル茶。沱茶・七子餅茶の一部でつくられている。
熟茶・熟餅:「堆積」によってつくられたプーアル茶。現在の主流。
▼ 復揉
形を整え、香りをよくするための作業。
初揉より揉圧を弱くして、時間も短くする。
▼ 乾燥
水分の含有量を少なく(8〜12%)して保存性を高め、香りよくする作業。
日光乾燥と機械乾燥がある。
湖南黒毛茶と六堡茶は、松の枝を燃やしたかまどで乾燥する。
そのため、松のスモーキーフレーバーが茶に付着して、独特の香りとなる。
緊圧茶の各製造工程
緊圧茶には黒茶の黒茶磚のほかにも、緑茶の緑茶磚・紅茶の紅茶磚・烏龍茶の烏龍茶磚がある。
▼ 蒸圧
各緊圧茶規定の形に加圧成形するために、原料となる荒茶(黒毛茶)に100〜102度で短時間(数秒〜1分)蒸す作業。
方包茶は茶汁を入れた釜で炒める。
▼ 加圧成形
蒸した茶葉を規定の形にするため、熱いうちに型に入れて圧力をかける作業。
籠入りの緊圧茶(方包茶・湘尖茶・六堡茶)は、籠に入れてから加圧する。
碗型(沱茶)やキノコ型(緊茶)などは、布袋にいれて手作業で形を整えてから、機械でそれぞれの形に加圧成形する。
▼ 発花(茯磚茶の行程)
加圧成形して包装された茯磚茶を室温26〜28度、湿度75〜85%の状態で12〜15日置いておくと、「金花(ジンファ)」と呼ばれる黄色胞子(ユウリチウム・クリスタタム)の塊が発生して、独特の香りが生まれる。
この作業を「発花」という。六堡茶にも同じような行程がある。
▼ 焼包(方包茶の行程)
加圧成形した方包茶を高温のままで隙間なく並べ、4〜6日置いておくことで、熱による品質の変化を起こさせる作業。
▼ 乾燥
緊圧茶の乾燥は茶磚にヒビや剥がれ、乾燥不足が起きないように低温でゆっくりとすすめる。
昔はほとんどの緊圧茶を陰干しで乾燥させていた。
■ 中国産黒茶磚(黒茶の緊圧茶)の規格
種類 | 形 状 | 重量kg | 茎含有量% |
茯磚茶 | 矩形板状(35×18.5×5cm) |
2 | 20 |
黒磚茶 | 矩形板状(35×18×3.5cm) | 2 | 18 |
花磚茶 | 矩形板状(35×18×3.5cm) | 2 | 15 |
青磚茶 | 矩形板状(34×17×4cm) | 2 | 25 |
康磚茶 |
隅が丸い矩形板状(15.8×9.2×4.7cm) | 0.5 | 8 |
金尖茶 | 隅が丸い楕円板状(24×19×12cm) | 2.5 | 15 |
湘尖茶 |
籠入り(58×35×50cm) | 40〜50 | 5〜15 |
方包茶 | 直方体(50×68×32cm) | 35 | 60 |
沱茶 | 碗形(外形8cm 厚さ4.5cm)またはキノコ型 | 0.1 | 5 |
緊茶 | 矩形板状(15×10×2cm) | 0.25 | 6 |
方茶 | 正方形板状(10×10×2.2cm) | 0.357 | 46 |
七子餅茶 | 円盤形(直径20cm 厚さ2cm) | 0.25 | 6 |
六堡茶 |
籠入り(高さ57cm 直径53cm) | 40〜55 | 10〜15 |
花巻茶 | 円柱形(高さ1.5m 円周56cm) | 36 | 15 |